春春春

 自分は北海道に住んでいて、嫌がらせのごとく雪がどっかんどっかん降る地域に住んでいる。春が近づいてくる気配は感じるが足取りは緩やかだ。

 外を歩けば積雪3メートルの天然のガードレールが道路と歩道を隔てている。道路の表面は白くてつるつるしてる。つるつるに凍った地面は黒のアスファルトが透けていて灰色だ。横断歩道に残るギザギザの轍は人の靴跡も混じってグロテクスな形になっている。

 顔を上げて建物の平らな屋根を見てやると、のったりとした雪の塊が積もっている。掛け布団のようにも、ホイップクリームにも、乾いた寿司ネタのようにも見える。モーターの起動音に耳をかたむけると除雪機が動き回っていて、宙になだらかな坂を作る。

うつむけばレモン色の雪がちらほらある。辺りには重たそうな長靴の足跡と可愛らしい肉球が続いている。凍結した地面の上には滑り止め防止砂が撒かれていて、ネズミの糞と言うか黒ごまと言うか迷う。どちらにせよ、それらを踏みつけるのはあまり良い気がしない。

 他の季節に比べると冬は静かだ。歩くたび、踏む雪はザクザクガサガサと鳴る癖に、それ以外は幕を下ろしたようにおとなしい。冷たい結晶を前にして遠慮がちになる。

 葉っぱと葉っぱがぶつかる波音。交尾を求める昆虫の合唱。遠くから響く汗臭い少年たちの声。駆けるランドセルから聞こえる教科書の鼓動。季節の変わり目はぜんぶが懐かしく感じる。

 同じ夏は二度とこないと言うけれど冬は同じだ。いつも同じ服を着て何食わぬ顔で立っている。
 重い腰を上げた春がもうすぐやってくる。はやくこい。